奈の方が高か

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奈の方が高か


 今夜は、三太が福島屋へ行き、ゆっくりと話しをするつもりである。
   「新さん、辰吉に憑いて、辰吉が早まったことをしないか見張っていてくれませんか」
 三太は守護霊の新三郎にお願いをした。むしSCOTT 咖啡機評測ろ、これからは辰吉を護ってやって欲しいのだ。
   『よし、分かった、任せてくだせぇ』
 辰吉は、今夜三太と話が出来ると、晴れ晴れとした笑顔で福島屋に帰って行った。

   蕾がめいっぱい膨らんだ桜の木の下を、文太と梨奈(りな)が黙って歩いていた。梨奈ときたら未だに小学生の時の習慣で文太のことを「お兄ちゃん」と呼ぶものだから、知らない人は完全に兄妹(けいまい)だと思っている。小学生時代は梨った背丈が、今では文太の肩ほどしかない。 中学一年生の頃までは、クラスの中で一番小さくて「チビ」と呼ばれた文太だったが、すっかり追いついて、もう誰もそんな呼び方をするものは公開大學 學位居なくなっていた。 

   「梨奈は高校を卒業したら、進路は決めているの?」 文太が口火を切った。
   「今日入学して、もう卒業後の話」
   「俺たちは立ち止まることは許されないし、ニートとか親の脛をかじるという選択肢はないだろ」
   「それって、選択肢じゃないで公開大學 學位しょ」
   「まあ、そうだけど」
   「そうねぇ、18才になったら施設には居られないから、まず如何に生きて行くかよね」
   「それなりの理由があれば、20才までは置いてくれるそうだが、居辛いよな」

 梨奈は深刻そうなことを言う割には、文太と同じ学校に入れたことが嬉しくて浮き浮きしていた。二人が入学したのは、公立高校の普通科である。 

   「お兄ちゃんは、医者になると言っていたわね、東大の理3を受けるの?」
   「特待か、奨学金の給付が受けられる大学であればどこでもいい」
   「お兄ちゃんなら、東大も確実だと思うけどな」
   「俺は、研究者ではなく臨床外科医になるのだ」
 文太は独り言のように呟いて、梨奈の方に向き直り、優しい口調で言った。
   「梨奈は、まだ考えていないの?」
   「働きながら定時制の看護師学校に行くつもりだったけど、自分独りの力では無理だと思ったの。それに…」
   「それに何?」
   「動機が不純だし」
   「不純って?」
   「お兄ちゃんと一緒に働きたいなんて」
   「別に不純じゃないよ」

 梨奈は、告白のつもりだったが、文太はサラリと受け流した。梨奈はがっかりしたが、
   「二人は双子の姉弟なのだ」と、諦めた。
 文太のことを「お兄ちゃん]と呼んでいるが、本当は梨奈の方が半年ばかり早く生まれているのだ。

 夏休みが近付いたある日、梨奈がクラスメイトの彩恵里(さえり)を連れてきた。彩恵里は数学の授業が難しくて分からないという。文太も数学教師の教え方があまりにも下手くそだと常々思っていた。自分の教え方のまずさを棚に上げ、分からない生徒を阿呆呼ばわりする。これでは数学が嫌いになる生徒を増やしてしまう。文太は、自分が教えてやることにした。

 放課後、教室に残って一つ一つ丁寧に教えると、すぐに覚える。
   「それみろ!」
 文太は心の中で数学教師に言った。
   「阿呆はお前だよ」 
 それから暫くは復習と称して放課後に勉強を見てやったが、それを担任の教師にチクった奴がいたらしく、二人は担任に注意されてしまった。
   「家でやれ!」
 どうやら、文太に「下心あり」と痛くもない腹を探られたようだった。 それなら、私の家に来てほしいと彩恵里に頼まれ、一旦は断ったが、「どうしても」 と、言われ、「夏休みまで」と約束したうえ承知した。この時、文太の胸によからぬ予感が過ぎった。

 予感は当たった。彩恵里の母親に「家に押しかけるなんて非常識」と、追い返されたのだ。  ここでも「孤児!」と、冷ややかな嘲笑を浴びせられた。
 文太は何も反論せずに、黙って引き揚げた。玄関に背を向けたとき、彩恵里の泣き叫ぶ声が聞こえた。文太は自分の軽率さを反省しながら、帰途についた。
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