ダル人がこのへんにい
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ダル人がこのへんにい
ベルガラスは酒杯のひとつを手酌で満たしてから、この数ヵ月の出来事をてきぱきとかいつまんで話し、ブランドが殺害されたこと、アローンの王たちのあいだに紛争の種をまこうとする企てがあったこと、ジャーヴィクショルムの熊神教の本拠地に戦いを挑んだことを、ゴリムに告げた。
「そしてだ」ベルガラスの話の最中にゴリムの召使いたちが生の果物や野菜、串からはずしたばかりの熱々のあぶり肉の盆を運んできた。「われわれがジャーヴィクショルムを攻略したのとほぼ同じころに、何者かがリヴァの城塞にある育児室に忍び込んで、ゲラン王子をゆりかごから連れ去ったのだ。島へ帰ったとき、われわれは〈珠〉が赤ん坊の足跡をたどろうとしていることに気づいた――とにかく、足跡がかわいた地面の上にあるかぎりはな。〈珠〉はわれわれを島の西側へ導き、われわれは誘拐者がおきざりにしていった数人の熊神教の信者たちに出くわした。われわれが問いつめると、連中は新しい熊神教の指導者ウルフガーが誘拐を命じたと答えた」
「しかし、かれらの言ったことは本当ではなかったのだな?」ゴリムは抜け目なくたずねた。
「半分は嘘っぱちでしたよ」シルクが答えた。
「もちろん問題は、それがでたらめだということをかれらさえ知らなかった点にある」ベルガラスはつづけた。「連中は事前にきわめて周到にでたらめを吹き込まれていたのさ。したがって、その話はいかにももっともらしく聞こえた――とりわけ、われわれがすでに熊神教と戦争状態にあった事実から見るとな。いずれにせよ、われわれはドラスニア北東部のレオンにある熊神教の最後の砦を襲撃した。町を攻め落とし、ウルフガーを捕らえたあとで、真相があきらかになった。ウルフガーはハラカンというマロリーのグロリムで、誘拐とはなんの関係もなかったのだ。真犯人は、わしが数年前にあんたに話したことのある、正体不明のザンドラマスとやらだったのだ。サルディオンがこの事件全体の中でどういう役を演じているのか正確にはよくわからん。だが、なんらかの理由で、ザンドラマスは『ムリンの書』に出てくる場所――もはや存在しない場所――へ赤ん坊を連れていきたがっている。ウルヴォンは死に物狂いでそれを阻止しようとしており、だから子分を西へ送りこんで、そういう事態が起きないように赤ん坊の殺害を企んだのだ」
「どこから捜索をはじめるか、考えでもあるのかね?」ゴリムがたずねた。
ベルガラスは肩をすくめた。「二、三手がかりがあるだけだ。ザンドラマスが〈風の島〉をニーサの船に乗って去ったことはまちがいないから、そこからはじめるさ。『ムリンの書』によれば、わしが謎のなかでサルディオンへの道を見つけることになっている。サルディオンが見つかれば、ザンドラマスと赤ん坊との距離がちぢまることは確実だ。たぶん、予言書の中にヒントが見つかるだろう――破損していない写しが発見できればの話だが」
「ケルの予言者たちも直接かかわっているらしいの」ポルガラがつけくわえた。
「予言者たちが?」ゴリムは驚いた声をあげた。「かれらはこれまでそういうことはしたためしがない」
「知っているわ。かれらのひとり――シラディスという名の娘――がレオンに現われて、付随する情報と、ある指示をわたしたちに与えたのよ」
「ケルらしからぬことだな」
「どうやら事態は最後のクライマックスにむかって動きだしているらしいのだ、聖なるお人」ベルガラスは言った。「われわれはみなガリオンとトラクの対決に気をとられすぎて、真の対決は〈光の子〉と〈闇の子〉とで争われるという事実を見失っていたのだ。シラディスの話ではこれが最後の対決になるらしい。そして今度こそ、いっさいがそれをもって永久に決せられるのだ。思うに、予言者たちがついにおおやけの場にでてきたのは、そのためだろう」
ゴリムは眉をひそめた。「かれらが他人の問題に関心を寄せるとは思ってもみなかった」かれは重々しく言った。
「その予言者ってどういう人たちですの、聖なるゴリム?」セ・ネドラが押し殺した声でたずねた。
「かれらはわしらのいとこなのだよ」ゴリムは簡潔に答えた。
セ・ネドラはきつねにつままれたような顔をした。
「神々がいくたの民を創られたあと、選択のときがきた」かれは説明した。「民は七つあった――神々が七人おられたのと同じだ。しかしアルダーがひとりでいる道を選ばれたので、七つのうちひとつの民が神を持たぬまま残ってしまった」
「ええ。そのくだりは聞いたことがありますわ」セ・ネドラはうなずいた。
「わしらはもとは同じ民だったのだ」ゴリムはつづけた。「マロリー北部にはわしらウルゴ人、モリンディム人、カランド人、うんと東にはメルセネ人、それにダル人がいた。わしらはダル人ともっとも親しかったのだが、わしらがウル神を捜しに北へ行ったとき、かれらはすでに星を読もうと目を空へ向けておった。わしらは同行をうながしたが、かれらは一緒に行こうとしなかった」
「じゃあ、それっきりダル人との接触はなくなってしまったの?」
「たまにダル人の予言者が何人かわしらのところへやってくるが、どういう目的なのかたいてい話そうとせんのだ。予言者はたいそう賢いのだよ。かれらに現われる〈予見〉が過去、現在、未来の知識――さらには、その意味をも――与えるからだ」
「それで、予言者は女ばかりなの?」
「いや、男もいる。過去や未来を見る視力を授かると、かれらは必ず布で目をおおい、俗世間の光を残らずしめだして、もうひとつの光がよりはっきりと見えるようにする。したがって、予言者がひとり出現すると、道案内と保護者をつとめる物言わぬ男もひとり出現するわけだ。かれらはつねに二人で一組なんだよ――永久に」
「グロリムたちはなんであんなに予言者たちをおそれるんです?」シルクがいきなり口をはさんだ。「マロリーに何度か行ったとき、ケルのことをちょっと口にしただけで、マロリーのグロリムは蜘蛛の子を散らすように逃げていっちまったんです」
「おそらくグロリムがケルに接近しないよう、ダル人が手段を講じたのだろう。それがダル人たちの学んだ一番重要なことなのだ。グロリムたちはアンガラク以外のものには我慢ならないたちだからな」
「予言者たちの目的はどういうものなんですか、聖なるお人?」ガリオンはたずねた。
「予言者だけにかぎったことではないのだ、ベルガリオン」ゴリムは答えた。「ダル人は秘儀的知識のあらゆる分野にかかわっている――降霊術、魔法、魔術、魔力――もっとあるかもしれん。予言者の目的がなんであるか、正確なことはだれも――ダル人自身をのぞけば――知らないらしい。だが、それがどんなものであれ、かれらはその目的に心身を捧げている――マロリーの予言者もここ西方の予言者もな」
「西方?」シルクが目をぱちくりさせた。「るなんて知りませんでしたよ」
ゴリムはうなずいた。「トラクが〈珠〉を使って世界にひびをいれたとき、ダル人は〈東の海〉によってふたつに分けられてしまったのだ。西のダル人は第三黄金期のあいだ、マーゴ人の奴隷になっていた。しかし、住む場所がどこであろうと――東であろうと、西であろうと――かれらは無限の歳月をこえてある仕事にいそしんできた。その仕事がいかなるものであれ、それが万物の運命を左右するのだと、かれらは確信しておる」
「そうなんですか?」ガリオンはきいた。
「わしらにはわからんよ、ベルガリオン。その仕事がどういうものなのか知らないのだから、意義を推測することもできん。ただ、わかっているのは、宇宙を支配する予言にもかれらが従っていないということだ。かれらはもっと崇高な宿命によってその仕事が自分たちに課せられたのだと信じている」
「わしが気になるのはそこなんだ」ベルガラスが言った。「シラディスは秘密めかしたことを言って、われわれを操っている。たぶんザンドラマスのことも操っているだろう。わしは鼻づらをひっぱりまわされるのはいやなんだ――とりわけ、どんな動機を持っているのか見当もつかん者にひっぱりまわされるのはな。シラディスは万事をややこしくしてしまっている。わしはややこしいのは好かんのだよ。わしが好きなのは、すっきりした単純な状況と、すっきりした簡単な解決なんだ」
「善と悪のような?」ダーニクがほのめかした。
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